□ Your warmth 3
ベッドの腰を下ろし、側にあった煙草に火を付けた。
バランスを失った時に無理をしたのか、左足の痛みは増している。
痛みに歪む顔を煙草の煙で隠すように、その痛みに耐えていた。
「京一、湿布張り替えてやる」
冷やしたタオルを湿布を持って現れた涼介は、京一の返事を待つことなく足下に座り込んだ。
薄い包帯がゆっくりと外される。
持ち上げられた足が動くたび、苦痛で歪む京一に気を付けながら左足を露わにしていった。
どす黒く色の変わった足。大きく腫れ上がり踝を隠していた。
「こんな足で仕事に行ったのか」
「まあな」
「医者には」
「一応診せた」
ゆっくりと冷たい涼介の指が足に触れる。熱を奪い取ってくれるその指の心地よさに、京一の顔も緩んだ。
タオルで一度足を拭き、その後湿布を貼り替え包帯を巻く。
一連の動作が終わると共に、京一はベッドへその身を横たえた。
「鬼の霍乱」
「どういう意味だ」
「痛みに耐える京一の顔など、滅多に拝むことはできないだろ」
「・・・・勝手に言ってろ」
涼介に背中を向けると、湿布の心地よさに瞼を伏せた京一。
背後で沈むベッドの動きに、涼介の存在を感じた。
次第に沈むベッドと、肩に掛けられた涼介の手に振り向くと、前触れもなく降ろされた涼介の唇に京一は目を見開いた。
弾力をもった唇が頬を伝い首元まで降りていく。
首筋を熱くさせる涼介の唇に、体中の血がその場所へ集中していった。
きつく吸い付く涼介の唇。その唇が鎖骨へと。それはまるで、京一がいつも涼介にしていることの復元のようだった。
煽るだけ・・・・・。逆にあの言葉に煽られてとでも言うのか。
「涼介。いつまで続けるつもりだ」
「・・・・・・お前がオレに抱かれたい。そう言うまで続けてやる」
「言ったらどうなる」
「オレにも・・・・・・分からない」
「・・・・・・」
「どうなるのか」
「・・・・・・」
「どうするのか」
「・・・・・・」
「お前が望むなら、切ってもいいぞ」
「切る?」
「オレを縛るモノを」
見下ろされた視線。
一点を見つめるような視線から繰り出される言葉。
涼介を縛るモノを切る。
理性や羞恥心や・・・・・・プライドもか。
「涼介、止めておけ」
涼介の手の上に自分の手を重ね、動かされていた指の自由を封じる。
肘を着いて起きあがると、目の前に居た涼介を抱きしめた。
「そんなことをしなくても、オレが平気なことは分かってるだろ」
「・・・・・・温もりで安心でいることもある。そう教えたのは京一だ」
「それでもオレは、涼介に鎖を切らせる気はない」
「・・・・・・」
「切るときは、オレが切ってやる・・・・・・但し、涼介のプライドだけを残して」
「オレのプライド・・・・・・」
「無くしちゃならないもんがあるとしたら、それは」
「それは」
「涼介が高橋涼介であるためのプライドだろう。今までお前はそれを守ってきたんだ」
涼介のプライド。
その為に今まで、どれだけ高いハードルを越えてきたか分からなかった。
何度もその為に、遠回りをしてきた。
「温もりが欲しければオレが感じさせてやる」
「オレのプライドだけを残して」
「そうだ。お前が守りたいと言っていたプライドは、オレも守ってやる」
「・・・・・・」
「コレくらいのケガで、お前の全てを切らせるわけにはいかない」
「・・・・・・」
もし、涼介の全てを露わにさせるのなら自分の腕の中で・・・・・・。
単なる自分自身の欲望に溺れさせたいだけかも知れない。
それでも、きっと涼介の真なる部分には手を触れないだろう。
今までそれを守り通してきたんだ。涼介もオレも。
「それに、もしやるのならオレのケガが治ってからにしてくれ」
「ケガが治った後?」
「そうすれば、オレもお前を抱くことが出来る」
「誰がッ」
「・・・・・・ッ」
脇腹を抓り上げた涼介に、思わず抱きしめていた手を緩めた。
「涼介、ケガ人相手に何するんだ」
「誰がケガ人だ。捻挫ごとき京一のケガにはいるか」
京一の足を跨ぐように座っていた場所から腰を上げベッドを降りる涼介。
何も無かったかのように、寝室を後にしていった。
いつも通りに戻ったか。
抱かれるには涼介の顔が余りにも辛そうだった。
例え抱きしめられたことで快楽を得ても、心からは満足できるわけではない。
何かの代償に抱くことなど、涼介にはさせたくなかった。
心配してここまで来てくれただけでも、十分満足は出来ている。
何も言わなくても予感が涼介を動かした。
涼介の周りで、涼介の中でオレが生きているのなら、それで十分満足だった。
涼介から受け取った温もりだけで・・・・・・
END