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□僕の初恋 番外編


聞きなれたくもないエキゾーストが、聞きなれない峠に木霊する。

いや、でももう聞きなれてしまったのかもしれない。
普段はEG6の音も聞き分けられないようなナイトキッズのメンバー達でさえ、その脅威とも言える音に頭を抱え込んでいるくらいなのだから。

シンプルなパンダカラーが存在感を引き出すそれは、まるでメンバー達のように至極当たり前に駐車場に入ってきて、これまた当たり前のように赤いEG6の隣に停り一息ついている。
知らない奴はいないだろうという有名人だが、仮にもそんな奴がいたら、その堂々たる様子からそれが他のホームからやって来たドライバーだなんてけして思わないはずだ。

そのトレノがやって来るのは今日で幾度目になるのだろうか…。
しかもどうして今日なのだろうか?
…さて今日は何の日だったか?

流石にオーラは見えなくとも、メンバーの面々はそれに関してはかなりの確率で当たる嫌な予感がして、とにかく逃げたい一心でそれぞれの愛機へと飛び乗った。とたんに駐車場出口はパニックでも起きたのかと思うほどに大混雑振りを見せて、同じステッカーを貼った車が我先にと犇きあう始末。いつもこの勢いで走り込みをしてくれればチーム全体でのレベルも上がるだろうに…などと言う突っ込みは無粋である。
そのやたら五月蝿い一角をよそに、矍鑠たるトレノのドアがそこだけ異次元のようにのんびりと開いた。勿論そこから出てくる人物は諸悪の根源である藤原拓海(18)、青春真っ盛りの甘酸っぱい思いを真っ黒な心に秘めたうら若き乙女(!)…いやいや少年だった。
「慎吾さん、いますか??」
拓海はきょろきょろと辺りを見回すと、目的のものが見当たらないのか、そこに僅かながら残っていたメンバー達に向かって声を掛けた。何度かピンクのオーラに中てられて生死の境を彷徨った挙句の奇跡の生還を果たした勇猛果敢な数人は、不幸にも付いてしまった免疫力を恨みながらも首を横に振て知らないと伝える。
メンバーにとっては拓海も怖いが、何よりもリーダーの機嫌を損ねる訳にはいかない、と言ったところだろう。
いるもいないも仲良くトレノと並んでいるそのEG6が答えになっているのだが、慎吾はどうやら雲隠れというものを決め込んでいるらしいので、
仕方なしに拓海は自分で歩いて探そうと足を踏み出した。
「何の用だ…藤原!」
すると、その行動を阻止するかのように声が上がる。メンバーでも慎吾でもなく、EG6の反対側に停めてあった漆黒のR32の持ち主からだ。
にゅっと32の影から現れた中里毅は現在、庄司慎吾を取り合って恐れ多くも悪の大王パンダと交戦中の一介の走り屋である。
彼にえらい形相で睨まれてしまった拓海だったが、ハッキリ言ってそんなものは通用するわけがない。自前のボケ?っとした表情をニコヤカな交戦モードに切り替えるとしれっと言ってのけた。
「何の用だって言われても、中里さんに用があるわけじゃないですから、関係ない人はすっこんでて下さい。俺は慎吾さんに用があるんです」
「……っ!」
さすがにそれには温厚である漢・中里もブチリといってしまいそうになった。けれど御歳2×歳、いくらなんでも高校生相手に喧嘩は大人げないだろうと自己催眠でもかけるかのように、何度となく「落ち着け」と心で唱え、平静を取り戻そうと懸命なる努力を試みる。元々カッとなりやすい性質だが、どうもこの黒パンダに慎吾の名前を出されるとその比じゃない。
(落ち着け、落ち着け、落ち着け……自分!ここは大人の対処を…)
かの慎吾も同じ事を思ってこの拓海に敗れ去ったのだが、そんな事を中里は知る由もないのだ。
深呼吸を繰り返す中里を尻目に拓海はフッと口の端を吊り上げると、さっさと自分の目的を果たすために動き出す。
「さて…と、俺の恋人である可愛?い慎吾さんは…」
「っっっナヌ!?コイビト!!!!??」
その言葉に瞬時に眉を吊り上げる人物が二名。
……………あれ?……二名?
一人は中里と…?
「誰が恋人だ〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!?このクソガキ!!!」
つまり渦中の人、庄司慎吾その本人であった。
「慎吾!」
「慎吾さん!?」
途端に二人の声が絶妙(微妙?)なハーモニーとなって響き渡った。
「………あ…・・・・・」
つい勢い余って飛び出してしまったが、慎吾は二人の視線を受けて、やっと自分の取った最悪な行動に気が付いた。
「や・べ…ぇ……」
顔面蒼白とは良く言ったもの、まさにブッ倒れそうなほど真っ青になって二人を見比べている。
そう、実はハチロクが上がって来るのを音で感じ取った時、灯台下暗しと中里と一緒に32の影に隠れていたのだ。そして様子を見て中里が拓海を追い返す手筈になっていたのだが、どうやら拓海の方が一枚上手だったようである。
「もうっ!慎吾さんったら、本気で探すところでしたよ。…そのシャイなとこも可愛いですけど……ポッ///」
頬染めるんじゃねー!つーの!!!とハリセンでもあれば即突っ込んでやれたものの、それがない今は体が拒否反応とばかりに石のように固まってしまって動けなくなっていた。
何度となく味わった屈辱の日々が、頭の中に幾度となく走馬燈のように浮かんでは消えていって、…身の危険どころか精神の危険さえも感じる。
そんな慎吾を庇うように中里は拓海との間にズイッと割り入った。
「で、慎吾になんの用なんだ…?」
それはまるで姫を守るナイトのよう☆で、そんな姿に思わずドキっとしてしまった慎吾。やっぱ毅はカッコいい!などとはけして口には出さないが、自分を守る中里に送る視線は少女漫画さながらの恋する乙女のようであったと言う…(メンバー・談)
その背中に眩しさを感じながらも、何とか自我を取り戻せた慎吾は視線のみの「そうだそうだ」攻撃を送ることに成功した。
元からと言われれば身も蓋もないが、完全に二対一になってしまった状況下の中でも、拓海は臆することなく余裕ぶっこいて、そんな中里を鼻でせせら笑って見せる。そして目の前の中里は見えない事にして、その後ろの慎吾に向けて言った。
「だって今日は恋人の日、即ちバレンタインデーじゃないですか??俺は慎吾さんにチョコを持ってきただけですよ?vvv」
おいおい、中里と慎吾では態度が随分と違うじゃないか…なんて事は言ってはいけない。愛しい人の前では多少のブリッコだって必要なのだ。
当然二人の顔はヒクリと引き攣る。
『バレンタイン????んでチョコ???????』
その絶叫にも似た声が駐車場に響き渡って、雲行きが怪しくなりつつあった三人を見守っていたメンバーは全員頭を抱え込んだ。こんな時くらい予感は外れてくれたっていいのに…と。
「ええ、そうです」
そんな周りをよそに、拓海はナゼかいそいそとハチロクのハッチを開けると、そこから車の容量をどう考えても上回るであろう折りたたみのテーブルとイスを取り出してセッティングしていった。
テーブルに可愛いカントリー風の布が掛けられ、紅茶が注がれ、あれよあれよと言う間に駐車場の一角がオープンカフェとして仕上がっていく。まあ、イスが二脚しかないのは仕方がないが(笑)
「普通のチョコじゃつまんないんで、豆腐と合わせてムースを作ってきたんです。慎吾さんと食べようと思って」
そう言いながら、なにやら美味そうなチョコレートの加工物であろうそれをホールのままテーブルの中央に自慢気に置いた。たっぷりの生クリームを施した飾りつけは、もうプロ顔負けの仕上がりのようである。
「と・とう…ふ…?」
だが中里は、その見た目は洋菓子と変わらぬ物が豆腐と言われて軽いパニックを起こしていた。そんなところまでも頭の固い彼には豆腐とチョコの組み合わせはキツかったらしく、頭の中で豆腐に液体チョコが掛かっているいかにも不気味なものを想像して背筋を凍らせた。
「へー、美味いのか?」
甘いものもケーキも大好きな慎吾はそんな中里を横へ押しやると、興味津々とした瞳をキラキラと輝かせてテーブルに張り付くようにしてそのムースとやらを眺めている。
拓海は心の中でガッツポーズを決めると、慎吾にイスを引いてやった。
「モチロンです!愛がハンパじゃなく詰まってますから!」
「いや、愛はいらねーけど」
即答されてアイテッと額を押さえた拓海だったが、慎吾が素直にイスに腰掛けてくれたので、実はメチャメチャご機嫌だったりしていた。
先ほども言ったようにイスは二脚しかないので当然中里は立ちっぱなしになって惨めな思いをするしかなかったが、それでも慎吾の側を離れられないのだから仕方ない。拓海のことだから用意していた物に何を仕込んでいるのか知れたものじゃないし、何より慎吾と拓海を二人きりにするのには気が引けた。
もうチームの中で広まった二人の噂を聞くのにも嫌気がさしていたのだ(モチロン自分とだったらかまわないが!)
慎吾は拓海がムースを切り分けているのを嬉しそうに眺めている。
それ表情をチラリと盗み見て、ああ、こんな事だったら自分も何か用意すれば良かったと、中里は自分の甘さを反省して溜息をついた。
(ま、でも慎吾は誰にも用意してねぇみたいだし…。それに男が用意するのも変な話だよな、うん、普通はそうだよな)
そう考えようとして、やっぱり羨ましくて深い溜息をついてしまう。明らかに嫉妬していたのだが、それを認めるのも癪だったので「藤原が帰ったら覚えとけよ」と毒づくことでやり過ごす事にした。
しかし、それでやり過ごせない可哀相な男達がいる事も忘れてはいけない!
…ここは深い他では類を見ない程の谷を誇る妙義。深夜ともなればそこにはスキール音とエキゾーストが木霊し、排気ガスで薄く霞んだこの場所は…本当ならば重苦しいオイルとゴムの焼け付く匂いだけが充満するはずだった。命を掛けてバトルを挑む場所だった!
荒くれ者達の集団を纏め上げ、リーダーとして君臨する中里と、ダウンヒルスペシャリストとまで言われた慎吾。そして秋名の幽霊とも噂された県内最速ハチロクのドライバー藤原拓海という、TOPクラスのメンバーがここに揃っていたはずでもあった。
それがどうして甘ったるい香りが漂う中で、どうしてケーキと紅茶でお茶会なんぞをしているのだろうか?不毛な異空間を作り上げているのがどうしてそんな男たちなのだろうか!?こんな事態を一度でも想像できる者が過去現在未来合わせても一人でもいるのだろか?
いいや、いないはずだ。それ故にこの我が目を疑うような光景にすっ倒れる者続出!ナイトキッズ始まって以来の存亡の危機に見舞われていた(後々帰ってきたメンバーはこの世のものとは思えないオゾマシイ光景を見たらしい)
そんな事はまるっきり視界にも意識にも入っていない二人は、もうすっかり拓海のペースに乗せられていた。と、言うか慎吾が。
「美味しい?慎吾さん…?」
「ああ!スッゲー美味い!こんな特技があったんだな?藤原って」
心配そうに覗き込んでくる拓海に、慎吾は普段は滅多に見せないであろう子供っぽい笑顔で正直な感想を述べている。そりゃ反則だろ。
中里も拓海も美味そうなのはオメーだよと、心の中で両者静かにツッコミを入れていた。慎吾も慎吾で単純というのか、拓海のプレゼントによってすっかり敵愾心を失っている。
そうか慎吾は食いもんで釣ればいいんだと気がついた中里だったが、それよりも先に拓海がこのチャンスを逃すはずはなかった。
「……ほら、俺って母親がいないじゃないですか、親父と二人だと…どうしても料理って得意になっちゃうんです」
拓海はフッと計算づくされた遠い目をして、斜め45°に顔を傾けて哀愁を漂わせる。そこで眉を少し震わせ、そっと涙を拭う真似でもすれば完璧な演出の出来上がり。これでおお!なんて健気な少年なんだと思うこと間違いなし!←そうか?
「藤原……(じ〜〜〜んっ)」
その嘘っぽいホントの話に、涙目になりながら真面目に感動している慎吾は、どうやらあまりの空々しさには気が付いていないみたいだ。
おいおいマジかよ!と、中里は拓海の計画に目の前が真っ暗になって濁流の渦に巻き込まれる錯覚まで起きていた。
「あ、中里さんもどうですか?」
ここで寛大な心をも見せようと、心にもないセリフを吐いた拓海は、今までの話はなかったような所謂「イジラシイ」笑顔とやらを中里に向けて放ちたもうた。それは後光も相まってお花畑と天女が見え、ナゼか噂でしか聞いたことのなかった河までもが見えてしまったとは後日談。
流石!秋名のハチロク!不敗神話破れずか!?(なんのだよ)
「……………俺は…いらない…………」
元々甘いものは苦手だし、その想像を絶する物(中里にはそう見える)も口に入れたくなかったのだが、そんな事よりも何だかここで食べてしまっては負けたような気がして(いや負けだろう)中里はその申し出を断った。…でも、すっかり拓海に絆されてしまった慎吾の視線が痛すぎる。
「そんなこと言わずに喰えよ、毅ぃ?」
ああ、そんなに綺麗な瞳で責めないでくれよ、これは漢の勝負なんだ…と心の中で言い訳して、くっと目尻を押さえたが、次の天使の囁きによってその勝負の行く末が変わる。
「はい、毅、あ?んv」
「あーん」
パクリ、もぐもぐ、ゴックン………はっっ!?
(って!喰ってんじゃねーか!オイ!!!!俺!!!?)
でもあまりの嬉しさに中里の頬がでろ?んと緩む。これってもしかして!慎吾と間接キッスなのでは!?と心臓もバックバックと跳ね上がる。
「な?美味いだろ?」
そう言って首を傾げる姿がめちゃめちゃ可愛い!!?瞬時に目にフィルターが数十枚と掛かってしまった中里には、おい!お前マジ慎吾か!?と聞きたくなるほどのエンジェル慎吾がそこに見えていた。
「あ・あ、うまい…な」
もう味なんてわかるはずがない。そんなもんの味はどうでもいいから、慎吾の銜えたスプーンの方を(出来れば本人の口を)味わいたかった。
その行動にギッと奥歯を噛んだ拓海の目が、今にも怪光線を発しそうなほど光ったのには、ラブラブモードに入りつつある二人は気がつかない。そう、この勝負はまだついていなかった…。と言うよりも中里の方が優勢になってしまったのだ。本当ならば中里が食べた時点で拓海の勝ちとなったはずだったが、まさか慎吾があんな行動に出るとは思ってもみなかった。
このままでは引き下がれるはずがない。
(中里さんには悪いけど、俺も本気なんですよ!)
とうとう黒パンダに変貌をとげるその瞬間がやってきた。いや変貌するのではなく、簡単な薄皮一枚を脱ぎ捨てるだけだが…。
「そうそう…、中里さんは慎吾さんにチョコあげたんですよね?」
さあ白兵戦が始まる。しかもかなり拓海には有利の。
「……は?」
中里はいきなり思いがけない事を言われて何とも情けない返事をする。
何気なく思いついたふりをして聞いてみたが、その反応は判りきっていた。どう考えてもコッテコテのこの男がバレンタインなんぞ気にするわけがないし、チョコを慎吾に送って気を引こうなどとは考えもしないだろう。
そう確信して話せるほど、拓海はライバルの事にだって余念なく調べていた。中里は「自分たちには関係ない行事」くらいには思っていたかもいれないが、そんなところだって落とし穴になってしまう。
拓海は焦った中里にしてやったりと微笑みかけ(中里には悪魔にしか見えない)次々と言及していく。
「だって今日は恋心を渡す日でもあり、確かめるという素晴らしい日でもあるんですよ?まさか俺のライバルともあろう中里さんが慎吾さんの為の物を用意してないわけないですよね??」
うーん、さすが黒パンダさま。言い方がえげつないと言うか、いやらしいと言うか、嫌味と言うか…。
「え……?…いや…、その…」
「あれ??まずいこと聞いちゃったのかな?俺って」
「……………」
何を白々しい!と怒鳴ってやりたかったが、拓海の言ってることは中里が考えていた事のまさにそのものズバリで、何も言い返せなくなってしまった。
言われてみればアピールをすることではこのバレンタインデーと言うのはまさにうってつけ。自分は慎吾が好きなんだと自覚したものの、それなりに仲良くやってはいたものの、慎吾がそれに答えた記憶はなかった。もしかしたらとんでもなく見逃していけないイベントだったのではと落胆する。…が、それと同時になんでそこまで言われなくちゃならねぇんだと、沸々と怒りが込み上げてきた。
「じゃあ、慎吾さんに考慮してもらえるのって俺だけ?ふ?ん…、俺も中里さんがどんなチョコを用意してくるのか楽しみにしてたんだけどなぁ」





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GIFT

奇跡の産物達。ありがとうございます!


【頂きもの】

▼ini D


▽文字

Your warmth
(京涼)  1 
  2   3 

僕の初恋・番外編(拓慎)
 1 
  2   +α 

▼無双


▽漫画

幸玄(1頁)

▼指輪



【おくりもの】

嫁入済簡易log



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